ワンルームで御曹司を飼う方法
「いやー逞しくなったなあ、あかりん。バックパッカーなんてビックリしたぞ。やっぱお前はやれば出来る子だね」
車内のソファーに座りくつろいだ体勢になると、ようやく充は会話を進展させた。そんな彼の手には一冊の本が持たれ、ニコニコしながらこちらに表紙を向けてくる。
「あ、それ……私のブログの本」
「アメリカ、フランス、ブラジル、ロシア、ガーナ、ネパール、ギリシャ、モンゴル……だいぶ回ったな、やるじゃん」
まさか充が私の旅行記を読んでるだなんて思ってもいなかったので、恥ずかしくなってしまう。目の前でペラペラとページを捲られてしまい、なんだか照れて目を逸らせてしまった。
「俺の子供の頃のステイ先やら学校やら成長順に追っていったってとこか?しかしまあ、よくあんなたわいない会話の内容ここまで覚えてたな」
――ば、バレてた…!
本に視線を落としながら言った彼の言葉に、私の心臓がドキリと飛び跳ねる。
別に隠す必要はないけれど、充の軌跡を追って旅に出たなんて、本人に知られるのはやっぱりちょっと恥ずかしい。だって、下手したら世界を股に掛けたストーカーみたいだし。
けれど今さら弁解してもどうしようもないので、私は赤くなった顔で視線を泳がせながらも素直に答えた。
「た……たわいない会話でも、私には大切な充の思い出だから。忘れたりなんか絶対にしない」
モゴモゴとそう言うと、彼の視線が本から私に向けられる。思わず目がバッチリ合ってしまい、ますます恥ずかしくなってしまった私はあわてて顔を俯かせた。
けれど。彼は茶化すでもなければ静かな声で言葉を紡いだ。
「……そうだと思った。灯里は間違えずに俺の足跡を辿ってるって。だからきっと、この旅の最後に辿り着く場所はノーザンテリトリーだろうなって予測したんだ」
――そう。この旅のゴールはノーザンテリトリーのウルル。充が私を連れ出してくれた初めての世界。
あの場所に、今度は自分の足で立とうと決めていた。彼の軌跡を辿り、最後にあの空の下に立った時、きっと私は新しい自分を見つけられると思ったから。