ワンルームで御曹司を飼う方法
そんな訳でやっと深い眠りに落ちられた午前5時。私は結城社長の『朝メシまだ?』の要求で起こされた。まだ2時間しか寝てないのに……。
「ずいぶん早起きですね……それに今日は土曜日ですよ。お休みじゃないんですか」
「今日はし-ごーと。台湾の店舗の視察に行かなきゃいけないんだ。だから早く起きてメシ作って」
……なんで朝ごはんまで作ってあげる事が当然になってるんだろう。私そんな約束したっけ?眠い頭で考えながらも、のっそりと身体を起こしてキッチンスペースへ向かう。あくびをしながら冷蔵庫を開けた私に、ベッドの上から社長は「洋食ね」とごくごく当たり前のように声を掛けた。
基本、和食派の我が家にはパンの買い置きなど無いので、私はある材料を掻き集めてホットケーキと野菜ジュースを作った。
「粗食だね。味はまあまあだけど」
相変わらず失礼な褒め言葉を吐きながらも社長はペロリとそれを平らげると、さっさとスーツを着て身支度を整える。我が家に髭剃りとヘアスプレーが無いことに不満を言いながら。
そうして時計の針が6時をまわると共に、ようやく結城社長は「そんじゃ、行って来るかなー」なんて伸びをひとつしてから玄関へ向かった。
やっと帰ってくれる!解放される!思わず笑みが零れてしまいそうになるのを堪えて
「あまりお構いもしませんで。気をつけて行って来て下さい」
と玄関まで見送ると、社長はヒラヒラと軽く手を振っただけで「あいよー行ってきます」なんて言い残してドアの外へと出て行く。
確かに大したお構いは出来なかったけど、一泊のお礼ぐらいあってもいいのになあ。ちょっと不満にも感じたけれど、それよりも台風のような社長が出て行ってくれた事の方が嬉しかったので、私は顔を安堵に綻ばせながら心底胸を撫で下ろし部屋へ戻っていった。
***
『えー!?結局泊めちゃったの!?大丈夫?何もされてない?財布は?通帳は?』
「それは大丈夫。心配かけてごめんね。でもやっと出て行ってくれてホッとしてるよー」
ようやく一人に戻った部屋で、私はさっそくイサミちゃんに電話をかけて昨日の顛末の続きを話した。