ワンルームで御曹司を飼う方法

「俺が提案し立ち上げた新しいプロジェクトなんだ。減少傾向にある一次産業の人材を担うため、世界中の子供に質の高い生産者教育を受けさせ、将来は結城を中心とした日本のファームで雇用する。世界にはまだまだ教育を受けたくても受けられない子供が沢山いるだろ?そういう子供の学習支援と、将来の生産者としての教育を同時に行うことで両者にとっての救済になるんだ」

 そう語ってみせる充の眼差しはとても力強く自信に満ちていた。そんな姿を見て私は気付く。これがきっと、いつか彼が考えていると言っていた『新しくやりたいこと』なんだと。

「けど、今は利益なんか出ない完全なボランティア状態だけどな。開発途上国の子供から学費を取るわけにもいかないし、世界中に教育と実習の出来る施設を作ったり講師を用意したりで金もかかる。だからこのプロジェクトを提案した時は大反対にあったよ」

 眉をひそめ困ったように笑った充だったけれど、「でも」と口にすると瞳には一段と強い自信の光が灯った。

「これは必ず未来の結城を、日本の一次産業を救う。開発先進国、しかも結城の最新生産技術を惜しげもなく教育するんだ。10年、20年後には質の高い生産者が生まれ、その技術も志も継承され広がっていく。開発途上国の教育を救い、日本の一次産業を救い、将来の食品産業を救い、ひいては結城食品グループの利益に繋がっていく。それが『Connect』――、繋がることで未来を切り開いていく、壮大なプロジェクトなんだ」

 途方もなく大きな事業計画に、私はしばし呆然と聞き入っていた。

 世界中の人を巻き込んで結城を発展させ、さらには携わった人・国の全てに将来の利益を約束する。なんて……すごいことなんだろう。そこに掛かるお金も人材も時間も莫大なことを考えると、これは結城にしか出来ないことだ。

 理想は大きければ大きいほどそこに費やすものは膨らんでいく。このワールドワイドな理想のプロジェクトは、世界中で数々の事業を展開し莫大な資産のある結城の後ろ盾がなければ絶対に成功し得ない。

 世界と、人と、結城を繋ぐ。たくさんの未来に希望を約束する一大プロジェクト。

 ――充は、充にしか出来ない大きな役割を、見つけたんだ。


 彼の志に感動さえ覚えている私を見て、彼は嬉しそうに目を細めた。そして腕組みをするとわざとらしく悩んでる素振りを見せて「でもなあ」と口を開く。
 
< 171 / 188 >

この作品をシェア

pagetop