ワンルームで御曹司を飼う方法
「さっきも言ったけど、現状ボランティア状態なんだ。短期的な利益が出ないことにブーブー文句言うコンツェルンの役員も多くてさ」
「それは……大変ですね」
やっぱり簡単な話ではないのだなあと思い、同意して頷く。理想が大きければ障害だって多くて当然だ。私みたいな一庶民には雲の上のような話だけど、励ますぐらいはしてあげたいと考えていると。
「そ、こ、で、あかりんの出番なんだよ」
「……はぁっ!?」
いきなり得意げな笑みを浮かべて指名され、私は意味が分からず目を瞠ってしまった。
充は資料をパラパラと捲くると、あるページを開いて私に見せる。そこに綴られている英文はすぐには読み解く事ができなかったけれど、見覚えのある『Sucker』の文字が目に入った。
「『お人好しは世界を救う』。俺がプロジェクト立ち上げのときに付けたキャッチフレーズだ」
「お、お人好し……?」
目を真ん丸くして聞き返した私に、充はとても満足そうに笑って頷いた。
「どこかのお人好しさんのおかげで、人生変わっちゃった経営者がいるんだってさ。もっと人を、情を大切にしていこうって。んで、その経営者さんは今度は自分がお人好しになって誰かを助けようって考えたんだって」
……それって……。どう考えても他人事ではない話に、なんだか胸の奥が熱くなった。充が私の人生を変えてくれたように、もしかしたら私も彼の何かを変えていたのだろうか。
「お人好しは伝染するよ。自分が損を被ってでもいい、誰かを助けようって気持ちは必ず人を動かす。この俺が身をもって経験したんだから間違いない」
最後は可笑しそうに笑いながらも、充は自信満々に言い切った。
気弱で、断りきれなくて、それでも助けたい気持ちを捨てられなくて。そんな自分に落ち込みながら生きていた昔の私だったのに。
そこに意味を持たせてくれたことで、私はまた少し私を好きになれる。自分が宗根灯里で良かったと思える。