ワンルームで御曹司を飼う方法
「――という訳で、目先の利益しか見えていない役員のジジイ共を説得するため、人類お人好しの代表格・宗根灯里さんをスカウトにきたってワケだ」
「……えぇっ!?」
すっかり感激していた私に、充は最後にとんでもないことを言って度肝を抜いた。
わ、私が役員を説得?そんな無茶な!しかも人類お人好しの代表格って、嬉しいような全然嬉しくないような。
「無理です!私がまともに結城の役員さんとお話出来るわけないじゃないですか!」
「世界を股に掛けて『Sucker Backpacker』の名称を得たあかりんなら説得力あると思うんだよねー。グローバルなお人好しってそうそういないし。けどまあ、さすがに気弱な灯里を鬼瓦みたいなジジイ共と対決させるのは可哀想だから、そこは俺が矢面に立ってやるよ。感謝しろ」
勝手に指名しておいて勝手に恩を着せられてしまった。相変わらずの充のマイペースぶりに、私は懐かしいやら複雑な気分で苦笑いを零してしまう。
「灯里はアドバイザーってことで、俺に付いててくれればいいよ。世界中引っ張りまわせるだけの語学と度胸もついたみたいだし。せいぜい役に立ってくれ」
「……それって……」
もしかして私はこれから彼の補助として一緒に働けるという事だろうか。
充の掲げる大きな理想の手助けが出来て、いつだって世界中どこへだって一緒で――。
私の胸がトクトクと鼓動を早めていく。まさか、彼とこんな新しい関係を築ける日がくるなんて思ってもいなかったから。
静かに眠らせていた情熱が、否が応でも首をもたげ目覚めていく。……けれど。
「ひとつ……聞いていいですか?」
「どーぞ」
新しい関係を築いたところで、この情熱の向かう先が行き止まりなことに変わりはない。彼が結城財閥の御曹司である事に変わりはないのだから。
「私、ずっとニュース見てなかったから知らないんですけど……み、充はもう『アサギ』のご令嬢と結婚したんですか……?」