ワンルームで御曹司を飼う方法
「――ワンルーム……」
窓から広大な空と景色が臨める最上階。そのスペースをふんだんに使った広さの贅沢な部屋だったけれど……どこか既視感を覚えるのは、この部屋がウォールフリーのワンルームだから。
入口の右手にはキングサイズのベッド。中央には応接セットにテレビ。その奥にバスルームと洗面所があって、左端にはダイニングキッチンが設置されている。おまけにキッチンのワゴンには、豪華な部屋に不釣合いなカイワレの栽培キットまで。
家具や電化製品は比べ物にならないほど大きくて豪華だけど、配置は何ひとつ変わらない。
――あの、私たちが暮したワンルームと。
「充……」
高鳴っていく胸でゆっくりと隣を振り返れば、充はニコリと口角を上げ私の正面に向き直って言った。
「ただいま、ご主人さま」と。
そして少し照れくさそうにはにかみながら、私に紡ぐ。
「知ってるか?ペットってのは情が深いものなんだぜ。愛情を持って飼ってくれた人のことは絶対に忘れない。どんなに離れてたって、たとえ鎖で繋がれてたって、必ず抜け出してでも帰ってくる。大好きな飼い主のもとへ」
彼の言葉に、眠らせていた恋心が苦しいほどの幸せに満ちて目覚める。
――帰ってきた、私の大切なペットが。長い時間をかけて、一生懸命私のもとへ辿りついてくれた――。
感激でみるみる涙を浮かべる私の手を取り、充はそこに恭しくキスを落とすとおどけるように言った。
「このワンルームで、もう一度俺を飼ってください。ご主人さま」
私は涙を拭うこともせず、素直に雫を零れさせたまま満面の笑みを浮かべて頷く。
「しょうがないなあ。私は人類代表のお人好しですからね。手の掛かるペットに毎日ホットケーキを焼いたり、紅茶を淹れたり、育てた草のお味噌汁を作って餌付けしてあげます。だからもう…………ずっと側に居て、いいよね……?」