ワンルームで御曹司を飼う方法
・エピローグ(充view)
【エピローグ・充view】
「本当なのか、充」
結城本家邸の自室で俺を呼び出した親父は、デスクの上にある診断書を睨みながら言った。
「しつこいな、親父も。もう日本とアメリカとドイツの病院で三回も調べたんだぜ、いい加減あきらめてくれよ。あの検査やんのかなり恥ずかしーんだから」
肩を竦めてわざとウンザリとした表情を見せると、親父は「ふざけるな!」と怒りの常套句を口にしながら拳でデスクを叩いた。
「二年前の検査では何も問題なかっただろう!このままじゃ『アサギ』の会長にも顔向け出来ないどころか……お前の次期総会長の継承も危ういんだぞ……!」
鬼瓦みたいに顔をしかめ苦しげに吐き出す親父のようすを見てると、少し胸が痛む。親父、いっつも怒ってばっかだったけど、それなりに俺に期待かけてくれてたんだなーって。
けど、もう決めた事だから。
俺はさっきまでのおどけた表情を消すと、親父が頭を抱えうなだれるデスクに向かって真っ直ぐ対峙した。
「次期総会長も、『アサギ』との婚約も、颯が継いでくれるよ。あいつは俺より貪欲で向上心が強いから、必ずいいトップになってくれる。もちろん、俺もこれからは親父と颯を通して結城を支えていく。――何も問題はない」
力強く言い切った俺に、親父はもう何も反論しなかった。俺が何を言おうがどういう態度をとろうが、もう現実は変わらない事を悟ったのだろう。
無言になってしまった親父の部屋を出ようとドアを開けたとき、後ろからポツリと独り言のように声が零された。
「……前総会長は充がコンツェルンを継承することを心から望んでた。きっと草派の陰で悲しまれているだろうな……」
湿っぽい嘆きを浴びせられ、俺は足を止めると一度ゆっくりと瞬きをしてから振り返る。
そしてクツクツと可笑しそうな笑い声を立てながら言った。
「大丈夫だよ、親父。天国のジジイの泣き顔なんか見たくもねえからな。悲しませるような事はしねーよ」