ワンルームで御曹司を飼う方法
――きっとこれから、苦労をかけるかもしれない。
俺の人生を賭けたでかい目標に強引に巻き込んでしまったのだから、決して平凡な日常には戻れないだろう。
そして、愛情深い彼女にこの先子供を持たせてやれないことにも、『アサギ』との婚約を破棄した以上、長いほとぼりが冷めるまで正式に彼女を娶れないことにも罪悪感は湧く。
元々は静かでささやかに生きてきた灯里にとって、俺と波乱の人生をともにすることは果たして幸せなのだろうか。
自問してみても簡単には頷けない。――けれど。
「まあ、しょうがないよな。俺の人生変えちゃったのお前なんだし。お前の人生は俺が変えるってことで、おあいこな」
どうしても手に入れたかったのだから仕方ない。そんな自己中な想いに苦笑をこぼし、俺は灯里の毛先をクルクルと指で弄んだ。
「それに、振り回される準備はもう出来てたみたいだし。さすが、あかりん。お人好し」
バックパッカーになり語学と文化を学んで行動力を身につけた灯里は、まるで俺が迎えに来るのを予期していたみたいだ。
もしかしたら共に暮したことで、目指す何かが似通うになったのかも知れない。どちらにせよ、もう俺たちは同じ未来に向かって歩き出し、欠けてはならない存在になった。
――あの日。帰る場所を失くし困り果てていた俺をしぶしぶ受け容れてくれた出会いが、ふたりの何もかもを変えた。
人の情、ささやかな幸せ、そして掛け替えのない恋。灯里が教えてくれた全てが、今ここに繋がっている。
そしてきっと、俺が灯里に教えた何かも。
『出会えて良かった』
そんな愛しさが込み上げてきて、俺は寝ている彼女を静かに抱きしめる。
ずっと触れたくても触れられなかった温かさ。それが今ようやく手に入った充足感は、何度だって胸を熱くさせる。
「これが愛ってやつか……ん?胸焦がす恋か?どっちだ?」
まあ呼び方なんてどっちでもいいやと思いながら、俺は灯里の額にキスを落とした。
「おはよう、灯里。そろそろ起きろ」
いい加減彼女に構って欲しくなった俺は、キスの雨を降らせ無理矢理目覚めさせる。
眠たそうに眉をひそめ身捩ぎした灯里の姿に、クスクスと自然と笑いが零れた。
窓の外は快晴の空と煌めく朝日。
その空へ吸い込まれるように飛んでいく鳥を見つけ、今日もいい日になると俺は希望に目を細めた。
fin
――結城充流、ペットの心得
・ご主人様の言う事はしっかり聞きましょう
・ときには無理矢理表に連れ出しましょう
・ご主人様が落ち込んでたら慰めてやりましょう
・いっそ、恋に堕ちてしまいましょう