ワンルームで御曹司を飼う方法
「……お互い、案外そーいうとこ初心者だよな」
本気で誰かを愛して、その想いが報われて、失ったり欠けたりすることに怯えるほどの幸福を初めて手にしたのは、お互い様だ。
知らなかった自分が出てきたり、自分の心なのに思うように操縦できないことがあっても、不思議はない。
だから、そういうときに灯里が戸惑っていることがあったら、俺から手を差し伸べてやれたらいいと思う。
俺は散々手触りを楽しんだ髪から手を離すと、深い眠りに落ちている灯里の身体を、そっと抱きしめた。
「ごめんな、今夜は不安にさせて」
腕に包んだ柔らかな身体が、モゾモゾと身じろぎする。
「……ん……、充……?」
「あ、起こした? ごめん」
眠ってる灯里をついあれこれ弄くってしまうのは、俺の悪い癖だ。
弄り過ぎてうっかり起こしてしまった灯里の頭を自分の胸板にぎゅっと押しつけ、ポンポンと背を叩き、無理やり寝かしつける。
「好きだよ、灯里。これからもよろしくな」
どさくさに紛れて呟いた思いの丈は、灯里の耳に届いただろうか。
まだまだ、自分のことも灯里のことも知らないことだらけだ。
――俺って恋愛初心者だな、なんてぼんやりと思いながら、灯里の向こうの窓に視線を向ける。
この星空の下、自分と血の繋がったもっと不器用な恋愛初心者がいることを思い出して、小さく笑った。
「お前も頑張れよ――颯」
まあ、あいつと恋だの愛だの語り合うことなんて一生ないだろうけど。
自己満足なエールを口の中で呟いて満足した俺は、腕の中のぬくもりをもう一度包むように抱きしめ直して、ゆっくりと瞼を閉じた。
END