ワンルームで御曹司を飼う方法
何もなかったとは言え、男の人を部屋に泊めたなんて蓮には知られたくない。蓮が私を女として見てないのは分かってるけど、それでも貞操観念が軽いとでも思われたらショックだ。
『分かった、蓮には秘密にしとくね。まったく、灯里は幾つになっても純情なんだから』
そんな風にクスクスと笑いながらイサミちゃんは電話を切った。通話を終えたスマホを手にしながら、私は部屋の真ん中でボンヤリと天井を見上げてしまう。
……確かに、なんだかんだ言って私、社長に一泊二食付のおもてなししちゃってたんだ。突然転がり込んできた怪しい男の人にそこまでしちゃうって。我ながら押しに弱くて呆れるなあ……
チクリ、胸を刺す自己嫌悪。結局、イサミちゃんがいなければ私はこんな状況になったって、強い拒否すら出来ず流されるままになってしまうんだ。なんだか悲しくなってしまったけど、犠牲になったのは食事とベッドだけだったのは幸いと思うことにした。万が一にでも襲われたりしてたら、それこそ取り返しが付かなかった。
「よし!気持ち切り替えよ!」
自分に発破を掛けると、私は社長のせいでくつろげなかった休日を取り戻すべく外に出かける準備を始めた。
***
うちから歩いて20分弱の図書館。そこはもっぱら私が休日を過ごすレジャースポット。
読書が趣味ではあるけれど、毎週新しい本を5冊も6冊も買うほどの余裕なんか私のお給料には無いわけで。そんな本好きの強い味方が公営の図書館だ。数え切れないほどの本に囲まれ静かに読書が楽しめる上、貸し出しまでしてもらえるなんて。図書館を考えた人は偉大だなあなんて、思わずニコニコしてしまう。
先週借りた本を返却すると、さっそく文芸コーナーの棚に行って新しく読むものを物色した。気になるタイトルのものを手にとって、中身をパラパラとめくり伺っていると
「それ面白かったよ。実在の民俗学の研究を基にしてて、背景が深いの」
私の後ろからそっと小声でそんな書評が呟かれた。
「あ、兵藤さん」
振り向いて見れば、そこには人懐っこい顔で笑いかける女性の姿が。兵藤未来(ひょうどう みく)さん、私と同じ結城物流第2倉庫で働く24歳の事務員。ただし、兵藤さんは正社員だけど。