ワンルームで御曹司を飼う方法
俺に言わせれば、そんなかったるい契約はみんな打ち切ってしまえと思う。国内だとか長年の付き合いだとか、そんなもんに拘ってるから新規参入してきたどっかの会社にサクサク抜かれてしまうのだ。
今の結城コンツェルンのやり方は古い。このままでは激動の時代を迎えた今の日本ではやっていけない。それが2年前より結城食品グループのひとつ【ファストフーズキッチン】を任された俺、結城 充(ゆうき みつる)27歳の自論だ。
「別に俺は社長を辞任したって構いませんよ?一消費者になって信頼とやらに拘った結城の行く末をあたたかーく見守ってあげますよ」
「充!!」
大声を出したのは今度は親父だった。顔を鬼瓦みたいにしてデスクをドンと叩きながら。一方爺さんは顔の前で手を組むと、皺だらけの顔を少し沈ませ大きく息を吐き出した。
「才能が突出していたあまり、ワシが可愛がりすぎたのが失敗だったな……」
今更そんなこと嘆くなよ、27歳の孫に向かって。そう思って苦笑を浮かべていると爺さんは突如秘書に何か耳打ちしてから俺の方に向き直った。
「充。何度も言うがワシはお前の地位を奪うことはせんよ。一度与えた責任を、おいそれと取り上げるものでも投げ出すものでもない。ただし、お前には制裁と再教育が必要だ」
「は?」
思いも寄らなかった発言に、俺だけでなく会議室にいた全員が目を丸くする。爺さんは俺の親父に顔を向けると
「充は今、お前の家に住んでいるんだったな?」
などと突飛な質問を投げ掛けてきた。それに対し親父が「ええ……」と不思議そうな顔で答えると、爺さんは再び俺を見やり、ゆっくりと人差し指をたてて言った。
「世間に揉まれ人間と云うものを知って来い、充。衣食住、これからは全て自分の力で手に入れ暮らすんだ。結城の力に頼らずにな」
「は?どういう意味だよ?」
「つまり勘当だ。社長の立場だけはそのままにな」
「……はああっ!?」
結城充27歳。職業【ファストフーズキッチン】代表取締役社長。ただし、住所不定。所持金は……0円。
この日、世にも珍しい『ホームレス社長』に俺はなってしまった。