ワンルームで御曹司を飼う方法
「そうなんだ?今日はいいお天気だものね、ショッピングもいいよね。気をつけて行って来てね」
兵藤さんをお茶に誘い損ねた事を悟られないように、必死に笑顔を取り繕って返す。すると彼女は本を全て棚に戻してからこちらに顔を向けた。
「良かったら宗根さんも来ない?服見に行ってご飯食べに行くだけなんだけどね」
兵藤さんは本当に気遣いが上手いと思う。こんな風に嫌味無く私を仲間に入れてくれようとして、優しく微笑みかけてくれる。……なのに私は。
「あの、えっと、ありがとう。でも、私もこれからお客さん来るから帰らなくちゃいけなくて……」
咄嗟に口をつくのは虚しいウソ。兵藤さんをお茶に誘うだけでも勇気が必要な私が、いきなり彼女のグループに飛び込める訳なんかなくって。
別に彼女の友達が苦手なワケじゃない。でも、あまり喋った事のない人といきなり休日を一緒に過ごすなんて、私にはハードルが高すぎる。無駄に気を使ってしまって疲れてしまう自分が容易に想像できる。
「そっか、残念。じゃあまた今度ね」
なのに兵藤さんはまったく気にする様子もなくニコリと笑うと、私に手を振って館内から出て行った。その後姿に小さく手を振りながら、私は自分の胸にまたひとつ自己嫌悪が落ちるのを感じていた。
――やっぱり上手くいかないないなぁ。
図書館で借りた本を入れたトートバッグをブラブラさせて商店街の遊歩道を歩きながら、私はぼんやりと自分の事を考える。
別に人見知りって訳じゃないんだけれど。なかなか自分から積極的に動こうと思えないのは、やっぱり意思が弱いからなんだろうか。たまに勇気を出しても少し躓いてしまうとすぐに躊躇ってしまって。
秋の澄んだ青空を見上げると、夏よりは随分柔らかになった日差しが煌いて映る。こんな気分の時、やっぱり会いたくなるのはイサミちゃんや蓮だ。故郷で3人仲良くやっていた頃が懐かしくて仕方ない。
「私……寂しいのかなあ」
誰にも聞こえないほど小さく呟いた私は、空を仰いでいた視線を戻すとふと足を止めた。