ワンルームで御曹司を飼う方法
・ペットと暮らそう(灯理view)
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【ペットと暮らそう・灯里view】
なんで?どうして?異様な光景を目にして私は完全にパニックに陥る。だって今日は台湾出張でしょ?まだあれから12時間も経ってないのに何で結城社長がここにいるの?しかもテレビでしか観たことないような超絶VIPな光景がこの小狭い住宅街で繰り広げられてるのだ。非現実感がハンパ無い。
「では、明日またお迎えにあがりますので」
「ジジイに言っとけ。土産代ぐらい寄こせって」
スーツの男女に深々と頭を下げられながら、結城社長はスタスタとこちらに向かって歩いてくる。そして、窓からポカンと見ていた私に気付くと。
「お、宗根っち。ただいまー。今夜の晩ご飯なに?」
引き締まっていた表情をニッコリと緩ませて、こちらに向かってヒラヒラと手を振った。
あ、あ、あ、ありえない!!今この人なんて言った?『ただいま』って言わなかった?ナチュラルに。しかも極々当然のように『晩ご飯なに?』とまで。
呆気にとられて開いた口が塞がらないでいる私の脳裏にイサミちゃんの言葉が過る。
――野良犬ってのは1度エサを与えると味を占めてしつこくなつくモノなんだから――
な、なつかれた!野良犬、もとい野良社長に!完全に!
愕然としている私に構わず、結城社長は部屋のインターホンを鳴らすと
「おーい、早く開けろよー。俺を待たせるとか常識が無いぞ、宗根ー」
それはそれは上から目線で鍵の開錠を私に要求するのだった。
***
「お土産に小龍包でも買ってきてやろうと思ったんだけどさあ。それすら経費で落とさせてくんねーの。ホントあのジジイ融通きかねえよな」
早速私の淹れた紅茶を飲みながら、結城社長はそんな事を言ってやっぱり私のベッドに腰を降ろす。どうしてこうなってしまったのか。
リムジンの到来で近所中の注目を集める中、社長を締め出し続ける勇気など私にはなくって。気が付けば私は否応なしに鍵を開け、「ただーいま」と呑気にのたまう社長を部屋に入れてしまったのだった。