ワンルームで御曹司を飼う方法


 私の言い分は真っ当だと思う。けれど社長はそれを45度くらい斜めの思考から答えを返してくるのだ。

「うーん、確かに宗根は女だけど。俺、襲ったりしないよ?万が一に妊娠でもさせたら色々面倒だしな。自分の遺伝子の価値が軽くない事ぐらいは自覚してるから」

 えええー?私を襲わない理由がそれ?すごい、我が身の可愛さ一辺倒しかない。ちょっとでも『世話になってる宗根にそんな事しない』なんて誠実な答えが返ってくるかもと思った私が馬鹿だった。

「でも、俺が社長だからって気は使わないでいーよ。あんま堅苦しいのも肩凝るしな、職場じゃないんだしタメ語でいいよ。あと“社長”って呼ばれるのも何か気が抜けないからやめよ?」

「そうは言われても……社長は社長なんですし、難しいですよ……」

「宗根は気にしぃだな。もっとラクに考えなよ。ほれ、呼んでみ。『充』って。練習練習」

 いきなり呼び捨て!?と驚いたものの、社長はシチューを掬う手を止めてこちらを見つめ「はい、リピートアフターミー」などと笑いかけてくる。

「で、でも……」

「さん、ハイ。みーつーる。言ってみ?」

「み……充……さん」

「『さん』はいらない。はい、もっかい」

「……充……」

「よく出来ましたー」

 な、なんだこれ。どうしてか社長を呼び捨てする羽目になった私。しかも何故だか褒められて頭まで撫でられた。

「宗根はなんかこうさ、気を使い過ぎだよね。もっと遠慮なく生きた方がいいよ」

 あなたがそれを言いますか。そんな喉元まで出掛かったツッコミは口を噤んで飲み込む。私が遠慮なく物事を言える性格だったら、社長は絶対にここでご飯なんか食べられてなかったワケで。私の気弱な性格に救われてるはずの社長の口から、それを否定されるとは夢にも思わなかった。
 
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