ワンルームで御曹司を飼う方法
「つーワケで宗根は俺に遠慮せず気楽にしてな。ここはお前の家なんだし」
だから、あなたがいると気楽に出来ないんだってば。そんな不満を籠めて私は、シチューのお代わりを求めてお皿を差し出す社長を、じっと見つめた。
「なんだよその顔。怒ってんのか?」
「怒ってるって言うか……やっぱり無理です。気が弱いのも色々気にしすぎる性格なのも、自分でも分かってます。でも……そんな簡単には治せないんだもん。だから社長と一緒に暮らすなんて、私に心労で死ねって言ってるようなもんです」
切々と訴えた私を見て社長は手に持っていたお皿を静かにテーブルに置くと、こちらの顔を覗きこむように前のめりになって口を開いた。
「じゃあちょうどいいじゃん。俺で練習しなよ」
「練習?」
「そう。社長の俺相手になんでも言える様になったら宗根も自信着くだろ。宗根は気弱な性格を治せる、俺は住む所に困らない。ここで一緒に暮らす事でお互いが得をする。Win‐Winの関係ってやつだ。ビジネスに於いては100点満点の関係だぜ」
得意そうに言った社長に、私は思わず「はぁ!?」と失礼な声をあげてしまう。なにが100点満点だ。どう考えても私はLoseだと思う。なのに社長は物凄くいい事を言ったと云わんばかりの満足げな顔で笑っているではないか。
「む、無理です。地球がひっくり返ったって私が社長に好き放題言える日は来ません」
「案外頑固だな宗根も。社長って思うからいけないんだよ。友達だと思って接してみなって」
「友達だって、よっぽどじゃなければ一緒に暮らすのは気を使います」
「じゃあ家族。兄貴と思ってりゃいいじゃん」
「兄いませんし。なおさら距離感が分かりません」
「あーもう、めんどくせえ。じゃあペット!ペットならお前も気ぃ使わないだろ。それでダメなら俺はもう植木鉢のサボテンでいいよ」
「ぺ……ペット!?」
なかばヤケクソで発された社長の言葉に、私は目を見開いて驚いてしまう。