ワンルームで御曹司を飼う方法
私がひきつった顔で返答に詰まっていると
「エリ、やめなよ。宗根さん困ってるじゃない」
諌めるような声を掛けながら兵藤さんが狩野さんの背後からやって来た。
「だって、聞かずにはいられないって!すっごいイケメンだったんだよ?しかも超~お金持ちそうなの!ね、ね、宗根さん、一緒にいた男の人だれ!?彼氏?どこで知り合ったの?」
うわー!やっぱり見られてた!しかもなんか誤解されてるし!だからと言って『彼は勘当中の社長で居候で自称ペットなんです』なんて弁解も出来ない。そんな事言ったって信じてもらえないどころか、変な人の印象を残すだけだ。
「ちょっと、その、えっと」
どう答えていいか分からず冷や汗まみれの苦笑でジリジリと後ずさる。けれど狩野さんは「あの人いくつ?どこで働いてるの?」などと質問責めの手を弛めはしない。そうして追い詰められたままロッカールームから出た時だった。
「いた!そ、そ、宗根くん!!」
廊下の奥から今度は何故だか工場長が私に向かって一目散に駆けて来るではないか。なんなの?まさか工場長まで昨日の現場を目撃してて『あれは宗根くんの彼氏かね?』なんて言うつもりじゃないでしょうね?
工場長は目を白黒させながら私の前まで来ると「ら、来客が!きみに!その!」と訳の分からない事を捲くし立てる。あまりの剣幕に私も周囲も何事かとポカンとしていると。
「お、いたいた。宗根っちー。ちゃんと働いてるかー?」
平和で穏やかな日常を打ち破る、非現実的で呑気な声が私を呼んだ。……ありえない。絶対絶対ありえない。だってここは職場で、まさかいる筈がない。
半ば祈るような気持ちで声の方を振り向けば、そこには――
「宗根の勤労ぶりを見に来てやったぞ。一生懸命やってたら給料上げるように言ってやるからな」
「な、な、なんで社長がここにいるんですか!!?」
隙の無いビジネスモードのスタイルながら呑気な笑顔を浮かべて手を振る結城社長が、数人の秘書らしき人を従えながらこちらに向かってくるのが見えた。