ワンルームで御曹司を飼う方法
「だから私はお止めしたんです。充さまは決断が軽率過ぎます」
「軽率じゃねえよ。会長がつまんねえ事に拘って怒ってるだけで、俺の決めた事は間違ってない。結果がどう出るか見てろよ」
ずっと眉を顰めていた秘書の人が口を挟むと、社長はムッとしながらも自信を漲らせた言葉で反論した。周りが反対する大規模な投資を平然とやってのけてしまうのは、神経が図太いからだけではなく、やっぱり経営センスから来る確信があるんだろう。そこに関しては凄いなとちょっと思ってしまう。
そんな、庶民には途方も無く感じる話題を、事務所の端にある小狭い応接スペースで話していると。
「すごっ!聞いた?ブドウ畑の買い付けだって!ドラマみたい!」
「社長の一言で億って金がアッサリ動いちゃうのか……とんでもねえな」
「ちょっとふたりとも、声聞こえるよ」
明らかに聞き耳を立てて感想を述べている声がパーテーションの裏から聞こえてきた。うわ、絶対これ狩野さん達だ。そう思ってこっそりと苦い表情を零していると、何やら小声で相談してる様子が窺えた。そして。
「失礼しまーす。お茶のお代わりいかがですかー」
愛想よく急須の乗ったお盆を手にした狩野さんと、ポットを持った男性社員……確か狩野さんの彼氏の三沢さんが、興味津々な眼差しをして入ってきた。
好奇心が抑え切れなくなったんだろうか、狩野さんは社長の返事も聞かずにチャッチャとお茶を追加しながら「子会社の視察おつかれさまでーす」なんて物怖じせずに話しかけている。三沢さんに関しては、まるで好きな女子でも前にしてるかのように、社長に熱い眼差しを送りながら頬を紅潮させモジモジと話し掛けだした。
「あの、結城コンツェルンの御子息とお会いできるなんて光栄です。メッチャ友達に自慢できます。俺たちとほとんど歳変わらないのにすげーでかい会社経営してて……カッコいいです、憧れます」
「私も私もー。結城コンツェルンって日本で1、2を争う財閥じゃないですか。そんな雲の上の人と会えるなんて感激っていうか」
上司と云うよりはもはや芸能人みたいな扱いになってるけど、肝心の本人は満更でも無いらしい。三沢さんと狩野さんのどこかズレた喝采に、結城社長は「あはは、お前ら馬鹿だろ」と素直に笑った。