ワンルームで御曹司を飼う方法
「エリ!酔っ払いすぎ!」と兵藤さんは慌てて否めたけれど、結城社長は顔色ひとつ変えずに「なんで?」と淡々と返す。
「女の子とひとつ屋根の下で暮らしてるのに手も出さないって、侮辱してますよお。私だったら許せないなあ、そんなに魅力ないの?って怒っちゃいますよお~」
詰め寄るように狩野さんが言うと、社長は「ふーん」と興味無さげにビールを飲んでから
「宗根、お前俺のこと怒ってるのか?」
なんと、よりにもよって私に話を振って来るではないか。こんな話題に巻き込まないで欲しいと心底思いつつ、ビミョーな苦笑いを浮かべて黙って首を横に振ると社長は狩野さんに向き直って「怒ってないってさ」と笑った。
「ウソだ~。宗根ちゃん絶対傷付いてるはず~」
狩野さんは私の答えに納得がいかなかったみたいだけど、兵藤さんに止められてそれ以上はこの話を続けられなかった。
そもそも、私が社長に怒るとしたらそんな所は問題ではないと思うんだけど。いきなり有無を言わさず転がり込んできて、好き勝手した挙句、食事の面倒までみさせられてるんだから。怒るのならそっちが先決だ。
ついでに言えば、この同居をギリギリ許せるラインは、社長が私に絶対に手を出さないと確信してるからに他ならない。結城財閥の遺伝子やら名誉やらをないがしろには出来ない御曹司さまのお立場が、若い男女をひとつ屋根の下で安全に住まわせる状況を生み出しているのだ。万が一、この状況が破られる事があれば私は即刻警察に駆け込むし、それ以前にこの部屋は監視されているので間違いが起こる前にどこからともなくストップが掛かるだろう。
なので、この同居生活のルールを根本から覆す話題はやめて欲しいものだと、私はコッソリ溜息を吐いてからグラスのウーロン茶を飲み干した。
隣の社長をそっと横目で伺えば、「狩野は馬鹿だな」と零す横顔は苦笑していて、きっと私と同じ事を考えていたような気がした。