ワンルームで御曹司を飼う方法

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 時計が11時を回ると、兵藤さんの「そろそろおいとましよう」の一言で場はお開きとなった。もっとも、すっかり酔っ払ってしまった狩野さんや話をまだまだ聞きたそうな三沢さんたちは渋っていたけれど。

 帰り際に三沢さんと来栖さんに「また来てもいい?」と尋ねられたけど、それに「構わないよ」と返事をしたのは私ではなくやっぱり社長だった。

 5人もの人が急に居なくなれば、部屋の中は急速に静まり返る。後片付けは兵藤さんたちが手伝っていってくれたのでほとんど済んでいるけど、緊張感が解けたせいか急に疲れが込み上げて来てしまい、私は部屋のクッションにぺったりと座り込んでしまった。

「どした宗根?疲れたのか?」

 心配してくれたのか、結城社長が私の隣に腰を下ろしこちらを伺ってくる。

「うん、疲れちゃいました。だって私、部屋にあんなに大勢の人を招いた事なんて初めてだもん。てんやわんやで賑やかで、みんなのお世話をしたり色んな話題に巻き込まれたり。馴れない事ばっかりで疲れちゃった。……でも、凄く楽しかった」

 自分でも驚くけれど、それはウソじゃなかった。なかなか踏み出せないでいた一歩を強引に十歩ぐらい進まされた今日は初めての体験だらけで、緊張したり面食らったりもしたけれどすっごく楽しくって。

「こんなの初めて。私、自分で思ってるより臆病じゃなかったのかもしれない」

 そう考えるとなんだか今まであれこれ考えて竦んでた自分がちょっとバカみたいに思えて、私はクスクスと肩を竦めて笑った。

「良かったじゃん。よく頑張ったな、宗根。いい子いい子」

「な、なんですかもう。これじゃ私がペットみたいじゃないですか」

 私に釣られたのか、同じように笑顔になった社長は手を伸ばして頭をワシャワシャと撫でてくる。髪がクシャクシャになってしまったけれど、その手はなかなか心地良かったので振り払う事はしなかった。

「お前はやれば出来る子だよ、宗根」

 相変わらず何様的な褒め方だし、そもそも今日の騒動はみんな社長が招いた事態だったんだけども、それでも自分の成長を誰かに褒めてもらえる事は嬉しくって。私はペットみたいに撫でくりまわしてくる社長の大きな手を、いつまでも大人しく受け入れていた。


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