ワンルームで御曹司を飼う方法
イサミちゃんは笑いながらもそう言って、今日も私を心配してくれる。電話の向こうのいつもの声。聞くだけで安心する。
「いつも心配してくれてありがとう。ねえ、イサミちゃん。今度いつ会えるかな」
『そうだね、しばらくまとまった休みも無いし年末になるかなあ』
「そっか。まだまだだね……」
イサミちゃんが神奈川に行ってから半年が過ぎた。近いようで遠い中途半端な距離は仕事をしている社会人にとっておいそれと会う事ができないやっかいな距離で。おかげで私は夏季休暇以来2ヶ月も彼女に会っていない。
週に何度かは欠かさず電話はしているけど、やっぱり顔が見たい。贅沢を言えば本当はずっと側に居て欲しいけど。
そんな風に小まめに近況を連絡してるので、結城社長との日常もイサミちゃんのよく知った所だ。最初こそ心配ばかりさせていたけど、最近では『引っ込み思案の灯里には丁度いいくらいの刺激かもね』なんて見守ってくれるようになっている。
そして今夜も。結城社長がシャワーを浴びている間がすっかりイサミちゃんとの通話タイムになった私は、いつものように15分ほどの会話を楽しんでから電話を切った。
「イサミちゃんに早く会いたいなあ」
そんな事をしみじみ思いながらスマホを充電器に戻すと、ちょうど同じタイミングでバスルームのドアが開いた。
「宗根ー、そろそろ寒くなってきたからシャワーの温度少し上げようぜ」
濡れた髪をワシャワシャとタオルで拭きながら、浴場の湯気と一緒に社長がシャワーから戻ってくる。そしてすっかり慣れきった様子で冷蔵庫まで行くと、ポットに作り置きしてある麦茶をコップに汲んで飲んだ。その姿を見て、御曹司さまも随分庶民の生活に染まったものだと何処か感慨深く思ってしまった。
「11月まで根性で乗り切りましょうよ。設定温度が1度違うとガス代が結構違うんですよ」
「渋いなあ。俺がその分翻訳やるから無理せず上げようって。風邪ひいたら医療費の方が掛かるんじゃねーの?」