ワンルームで御曹司を飼う方法
「な、な、なんなんですか!?」
状況が何ひとつ理解できないままリムジンの後部座席に押し込まれる。部屋の玄関は開けっ放しだし、電気もつけたままだし、おまけに私も社長も完全にくつろぎモードのルームウェアだ。こんなありえない状態で何故どこかへ出かけなくてはいけないのか。
「社長!下ろしてください!部屋、電気も鍵もそのまんまじゃないですか!」
「気にすんな。ちゃんとあいつらがやっとくから」
動転してる私とは対照的に、社長はいたって冷静に腕組して座っている。まあ、社長がそう言うのなら部屋の始末は結城の人がなんやかんややっといてくれるのだろう。
それにしたって一体私はどこへ連れて行かれるんだろうか。さっき強く言い返した事で気を悪くした社長が、もしかしたら私にとんでもない罰を与えに行くのではないかと馬鹿げた不安まで湧いてしまう。けれど。
「そちらのお嬢様に、円蔵さまよりお飲み物のご提供です」
だだっ広い車内の運転席側に掛けられているカーテンからパンツスーツ姿の女性が出てくると、私たちの前のテーブルに温かいミルクティーをひとつ置いた。
ただでさえ車の中にカーペットが敷かれソファーとカウンターテーブルが設置されている非現実的な空間に圧倒されているのに、秘書だかお手伝いさんだかが私に飲み物を持ってきてくれて目を回しそうなほど萎縮してしまう。
「ジジイが?なんだ、気が利くじゃん」
「充さまがお世話になってらっしゃるとの事で、丁重にもてなすよう円蔵さまより言いつけられております」
……円蔵って……社長のおじいさんで結城の総会長の事だよね……。そんな人からもてなしを頂いてしまって、私は人生で一番の恐縮を感じると共に、どうやら悪いようにされる訳ではなさそうだと密かに胸を撫で下ろした。
それにしてもなんでひとつだけ?目の前には車内だというのにプラチナ色したシャンパンやグラスの並んだ棚があるのに、テーブルに置かれたのは私のミルクティーだけだ。
同じように不思議に思ったのか社長も何か言いたげに顔を上げると、その女性は穏やかな笑みを浮かべたまま
「充さまは勘当の身ですから」
と、たいそう厳しい事をソフトな口調で言い切った。それに社長が渋い顔をしたのは言うまでも無い。