ワンルームで御曹司を飼う方法
「そんな事……ないです。自分の事だもん、自分が一番よく分かってます」
ふい、と顔を背けながら返すと、隣からは「ばーか」と言う実に子供じみた悪口が飛んできた。
ひっどい、と思って振り返り睨みつけようとしたら、社長は手を伸ばして何故だか私の頭をわしゃわしゃと撫で繰り回すではないか。
「お前はやれば出来る子だって前に言ってやっただろ。俺の勘に外れはないんだよ」
髪がくしゃくしゃになっちゃうので退けようとした手を、私は彼の科白を聞いて止めてしまった。
勝手な決めつけ。私の事なんか何も知らないくせに、そんな偉そうなこと言って。胸に沸いた文句は、きゅっと締め付けられるような痛みに掻き消される。
なんだか何かを言い返せばもっと胸が痛くなってしまいそうで、私は社長が手を離してくれるまでただ黙って俯いていた。
***
「おい、起きろ宗根」
「ん……あれ……?」
社長の声で起こされた私は、目を擦りながら必死に記憶を手繰り寄せる。ここ何処だっけ?寝ぼけた頭で周りを見れば、見慣れないラグジュアリーな内装にここがジェット機内だった事を急速に思い出した。
私、いつの間にか寝ちゃったんだ。緊張と驚きで眠れるワケ無いと思っていたけど、柔らかいソファーと心地良い空調にいつの間にかうたた寝してしまったらしい。
ただ、眠る前の記憶と何か違うのは、機内がやけに白んで明るいと云う事だ。その答えはすぐに社長が教えてくれた。
「見ろよ。ちょうど夜明けだ」
「え?」
手招きをされてソファーから立ち上がり、座席の隣の窓を覗き込むと
「――う……うそ…………」
「運が良かったな。エアーズロックの日の出が見れるなんて」
眼前には信じられない光景が――たった数時間前に本で見た写真と同じ光景が広がっていた。