ワンルームで御曹司を飼う方法
東から登る朝陽が、遮るものの無いひたすらに広がる空を白ませ、赤茶けた巨大な岩をより赤々と照らし出している。
ジェット機から見下ろした距離でも充分に伝わる荘厳さ。深く沈んだ緑の中央に、小山の如く隆起したそれは、世界で二番目に大きい一枚岩エアーズロック。別名、アボリジニの聖地ウルル。
さっき私の部屋で見た文献に載っていたものが、今こうして窓の外に存在していた。
これは夢だろうか。あまりにも、あまりにも現実離れしているこの状況に、私は窓ガラスにおでこをくっつけそうなほど夢中で外を眺め言葉を失くしてしまう。
「どうだ?」
目を瞠っている私の背中に社長の声が掛けられ、ようやく少し我を取り戻し顔を振り向かせることが出来た。
「ど……ど、ど、どうって……ここってまさか…………」
「来れたじゃねえか、オーストラリア。イサミ抜きで」
さも当然のように言われたその科白は――私の中で絶対揺らがなかった何かをたやすく崩した。
「…………まさか……そんなことを証明したくて本当にオーストラリアまで来ちゃったんですか……」
「論より証拠。ぐだぐだ口論するよりこっちの方が早いだろ」
「だからって!!ジェット機まで使って来ること無いじゃないですか!あ、あんな私の主張のせいでこんな……!」
おそろしい。超富豪の御曹司さまに相違した意見を主張すると、金に糸目をつけず説得されてしまうものなのか。たかが私みたいな小娘の言葉に、ヘリを飛ばしジェット機を飛ばし国を超え海を越えてオーストラリアまで来てしまうなんて。
今までも何度も彼の言動からお金持ちぶりを感じた事はあったけれど、直接巻き込まれたのは初めてだったせいもあって、私は過去最高に結城充の常人離れした御曹司っぷりを背筋が冷たくなるほど痛感していた。