ワンルームで御曹司を飼う方法
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「日本に到着するのが昼過ぎ!?」
「マッハ0,9で飛んでも7時間は掛かるからな。あー、俺ついでにロックデールで牛肉見て来るから、お前先に帰ってな」
「ひ、ひとりでジェットで帰れって言うんですか!?て言うか私今日仕事なのに!」
「乗ってるだけでいいんだから何も難しくないだろ?あと第二倉庫にはもう連絡行ってっから。宗根は遅刻するって」
ジェットの給油のために立ち寄ったダーウィンのプライベート空港で休憩をとりながら、社長は平然ととんでもない事を言った。ちなみに私は朝食と温かいコーヒーを出してもらったけど、社長は水を飲んでいる。ちょっと気の毒だ。
それよりも、人の仕事を勝手に遅刻にした上、あのどえらいプライベートジェットでひとりで帰れなど、いくら私のためにオーストラリアまで来たとは言え、あまりにも人を振り回しすぎではないだろうか。
頭がクラクラしてきて思わずうなだれてしまったけれど、そんな私を見て社長は呑気に笑う。
「大丈夫だって。宗根ならなんでも出来るって言っただろ?へーき、へーき。お前は強い子だぞ」
「そういう問題じゃないと思います……」
本当にこの人はどこまでマイペースで強引なんだろう。しかも人を巻き込む規模の大きさが尋常じゃない。
けれど。
彼に会えて良かったと、私の心は思い始めてる。
迷惑以外のなにものでも無かった筈なのに。強引に変えられていった日常が、振り返れば私を成長させてくれている。
メチャクチャだけど、時々本気で困るけど、でも。――私、結城社長に会えて良かったかもしれない。
「分かりましたよ、先に帰ってますからね。社長は夜には戻るんですか?」
「ああ、21時ぐらいには帰るから、晩飯よろしくな」
当たり前のようにご飯をねだる図々しい野良社長は、今やちゃっかりと義務を果たすペットだ。
手もお金もかかる。けれど、それでも居て欲しい。そう思えたならペットとしては合格なのだから。
生まれて初めての遠い地から帰る機内で、私は今日もペットのために美味しいご飯を作ろうなんて考えていた。
オーストラリアの空と同じ、とても澄んだ心で。