ワンルームで御曹司を飼う方法

「ええっ!!アサギが!?」

 三沢さんが声をあげるのも無理はない。アサギと言えば国内トップメーカーで世界的にも有名な歴史ある自動車メーカーだ。それが結城の傘下に下るなど、大ニュースもいいところだ。

 というか、そんな凄まじい情報をこんなところで漏らしてしまっていいのかとヒヤヒヤするけれど、秘書の人が飛んでこないところを見ると大丈夫なのだろう。

「傘下って、買収が決まってるんですか!?」

 興奮した面持ちで食らい着いてきた三沢さんに、うっとおしそうに顔を背けながら社長はねそべった姿勢のまま面倒そうに発言を続ける。

「アサギも会長が年だからな。経営も全盛期に比べて苦しくなってるし、昔から仲のいいうちのジジイに全権を託したいんだってよ」

「だからって、超大手メーカーじゃないですか!いくら会長が結城と懇意だとはいえ、他の経営陣は納得しないんじゃないですか!?」

 三沢さんの言う通りだ。アサギは結城と同じ一族経営だと聞くし、尚更だと思う。下手をしたら会長の方が辞任に追い込まれる事態だ。

 三沢さんや私の驚きと疑問に満ちた視線に社長は一瞬渋い顔をすると、そのままゴロンと背を向けてから……驚くべき発言を口にした。

「お互い一族になるからいいんだよ」

「一族?」

「俺とアサギの会長の孫娘は許婚だからな。昔っから決まってたんだよ、いずれアサギの経営権も俺が受け継ぐって」

 その答えに三沢さんとさっきまで興味無さそうにしていた狩野さんが驚きの声をあげる。

「社長!婚約者なんていたの!?」

 経営の話よりそこに食い付いてしまうのがなんとも狩野さんらしいけど。

 そして私はただただ驚いて声も出せずに、寝そべっている社長の背中を見つめるばかりだった。
 
< 67 / 188 >

この作品をシェア

pagetop