ワンルームで御曹司を飼う方法
「婚約者がいるのに女の子の部屋で寝泊りしてていいの!?」
何か言いたそうな三沢さんを押しのけ、狩野さんは寝転んでいる社長の肩をゆさゆさと揺り起こす。
「あーうるせーな。別にいいんだよ、囲ってる訳じゃあるまいし。それにお互い会社のための結婚だって分かりきってるんだから、いちいちプライベートに口挟んだりしねーんだよ。って言うか俺、相手の顔なんかまだ一度しか見てねえよ」
……政略結婚、て云うものだろうか。小説でしか読んだ事の無い、庶民には縁遠い言葉。愛とか情とかはなく、ただお互いの家の利益のための結婚。
そんなものが本当にあるんだな、なんて、どこか他人事のように思う自分と。こんなに身近に居る人に、決められた相手がいた事への驚きで、私はただ呆然と社長と狩野さんのやりとりを見つめてしまった。
「ええ~!?でもそれって相手の人にも宗根ちゃんにも失礼じゃないんですかあ!?」
「ほんっと狩野はうるせえなあ。財閥なんてそんなもんなんだよ。結婚もビジネスの一環、家を大きくするための手段、そうやって教えられてきたんだ。向こうだってそう思ってるんだよ」
「そりゃ社長はそうかも知れないけどお、でも宗根ちゃんは庶民ですよ?財閥の常識に当てはめちゃ可哀想じゃないですか」
「は?なんでだよ?」
背中を向けて寝そべっていた社長が、狩野さんの言葉を聞いて、振り返りながら身体を起こす。その顔には疑問と不満が浮かんでいた。
「俺はただの居候だ、婚約者がいようがいまいが宗根には関係ないだろ」
『関係ないだろ』……どうしてだろう。その言葉になんだか感じた事のない感情を覚える。胸の辺りが、モヤッと苦い感じ。
「えー?社長って冷たーい。イケメンのくせに女の子への気遣いってもんが分かってないんですね」
「おいエリ、社長に向かって失礼だぞ!」
狩野さんの言葉にますます不満そうな表情を浮かべた社長だったけど、口を開く前に三沢さんが止めに入った事で、不穏な会話は終わる事となった。