ワンルームで御曹司を飼う方法

***

 婚約者……婚約者かあ。

 狩野さんたちが帰ってもう数時間が経とうとしているのに、私はなんだかその事ばかりを考えてしまっている。

 結城社長は期間限定の居候だし、確かに私には関係ない。彼がここを出て行ったあと、結婚も含めどんな人生を歩むのかなんて。

ましてや、勘当期間が終わって結城の御曹司に戻った彼と私の接触など、ほぼ100パーセントなくなるだろうし。

 そりゃまあ、一緒に暮らしたんだから情ってもんは多少はあるけど、せいぜい結城コンツェルンの発展と彼の健康を祈るぐらいだ。

 社長が誰と結婚しようが、どんな仕事をしていくのか、所詮は庶民である私の知る所ではない。

 『関係ない』。社長の言った事は正しい。正しいけれど。


「……婚約者って、どんな人なんですか?」

 どうにもなんだか気になってしまうのは、どうしてなんだろう。私ってこんなに好奇心旺盛だっただろうか。

「なんだよお前まで。んなもん聞いてどうすんだよ」

 社長は翻訳を打ち込んでいたキーボードの手を止めると、質問してしまった私に不満そうな顔を向けた。

「すみません……なんとなく、聞いてみたかっただけです」

 どうも折からの反応を見ていると、あまり触れられたくない話題なんだろうな。

 無理して聞く事でもないし、と思って私はそのまま話を終えようとしたのだけれど。

「会ったのももう10年以上前だからあんま覚えてねーな。たしか5つか6つ位歳下だったような気がするけど」

 意外にも社長は私の質問に答えてくれた。雑な回答ではあるけれど。
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