ワンルームで御曹司を飼う方法
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【2】
「泊めて」「困ります」「何もしないから」「困ります」「助けると思って」
そんな攻防戦を繰り広げた私と結城社長だったけど。決め手は彼の奥の手「じゃあ社長命令って事で」だった。ずるい。ズル過ぎる。
まだ嫁入り前どころか彼氏すら出来たことのない私の部屋に、イヤ過ぎる偶然と縁が絡み合って、我が社の社長がご一泊する事になったこの事態。ううん、これはもう事件だ。こんな大事件に小市民で小心者の私が対応出来る筈がない。
私はアパートの手前まで社長を仕方なしに連れて行くと、「ちょっとだけ待ってて下さい」と言い残し、建物の影でコッソリと電話を掛けた。
縋るような思いでかけた電話の相手は――
「も、もしもし?イサミちゃん?」
『うん、どうしたの灯里。また何か困った事でもあった?』
栗原イサミ(くりはらいさみ)。26歳。私の頼れる幼なじみ。
イサミちゃんとの付き合いはもう20年以上になる。実家がご近所さんで同い年の彼女はしっかりもので、いつも大人しい私を引っ張ってくれる存在だった。成績優秀でリーダーシップもあってみんなの人気者。気弱な私はそんな彼女にいつもくっついていて、学生の頃は『灯里はイサミの腰ぎんちゃくだな』なんてからかわれたりもしたっけ。
優柔不断な私は何をするにもイサミちゃんに決めてもらって。就職を機に長野から東京に上京したのも、イサミちゃんがそうしたから私も右にならっただけ。なのに、イサミちゃんは今年の春に転勤で神奈川に行ってしまったので、残された私はとんでもなく心許ないというのに。
「どうしようイサミちゃん。あのね、うちの会社の社長って人が突然部屋に泊めろなんて言ってきて……私、どうしていいか分かんないの」
本当に。すぐそばにイサミちゃんがいてくれない事を悲劇にさえ思う。頼れる彼女がいてくれたら、こんな状況もきっとなんとかしてくれただろうに。
『もしもし、落ち着いてよ灯里。どういう事かちゃんと説明して』
「うん、ごめん。ちゃんと説明する。あのね、今日コンビニ行ったら――」