ワンルームで御曹司を飼う方法
「10年も会ってないって、連絡とかとらないんですか?」
「個人ではとらねえよ。お互いちゃんと育ってるか、結婚に従順な意思は持ち続けてるか、ってのはジジイ共が確認しあってるようだけど」
本当に私には想像もつかない世界だ。これだけ人権や個人の主張が尊重される現代社会に於いて、まるで監視下に置かれている動物みたいに結婚を管理されているなんて。……なんだか、可哀想と思うのは私の偏見だろうか。
「相手の方のこと……好きじゃないんですか?」
きっとくだらない質問だったのだろう。社長はキーボードを打つ手を止めると、溜息を吐き出してからわざわざ私の方へと姿勢を向け直した。
「好きとか嫌いとかそういう問題じゃねえんだよ、結城の人間にとって結婚てのは。会社同士が結びついて跡取が生まれればいい、それだけの事だ」
あまりにも乖離している、私たち庶民の結婚観と。一生をかけがえのない相手と生きる事が結婚だと思っているのが大多数であろう庶民の私から見ると、やっぱりなんだか気の毒に思えてしまう。
社長は誰かを好きになったり、恋をした事はないんだろうか。もしあったなら、こんなに淡々と政略結婚を受け入れられる事は無いと思うけど。
そんな考えが顔に出てしまったかも知れない。
「なんだ、その哀れんだ目は」
社長は苦々しい顔をすると、もう一度溜息をこぼしてから再びパソコンに向かった。そして、こちらに背中を向けたまま言う。
「財閥の事情を理解してくれとは思わねーよ。別に宗根や狩野がどう思おうと構わねえし。まあ、お前はお前で庶民らしく自由に好きな男と結婚すりゃいーんじゃねえの?」
「えっ」
とつぜん『好きな男』なんて単語が出て焦ってしまった。そもそも人の結婚に余計な事を考える前に、自分自身の恋愛はどうなんだって今さら省みる。
ちょっと動揺を露にしてしまったせいか、社長がこちらを振り向きキョトンとした顔をした。