ワンルームで御曹司を飼う方法
「えっと、あの、違うの。えっと」
頭が完全に混乱して弁解の言葉が全然出てこない。
蓮の目に映っているのは、間違いなく結城社長だ。それも、風呂上りのラフなスタイルでくつろぎながら晩ご飯を食べているという。
どう考えても、間違いなく、誰が見ても。100パーセント誤解する絵面だ。むしろそれ以外に解釈のしようがない。
普段感情表現をあまり出さない蓮が珍しいほど驚きを露にし、目を瞠りながら何か言いかけては口を噤むのを繰り返している。そして、ようやく視線を私に戻すと、すぐに一歩後ろへと下がって言った。
「……ごめん。今度はちゃんと連絡してから来る」
短いその台詞は、蓮が結城社長を完全に彼氏だと誤解しているひと言だった。
「れ、蓮!」
蓮はあっさりと身体を翻すと手にしていた傘を開きアパートの軒下から出て行く。
どうしよう、蓮に誤解されちゃった、どうしよう。そんな何の解決にもならない焦りばかりが頭を占めていて、私は咄嗟に動き出す事も出来ない。
……もし、今までの私だったら。きっとこのまま遠ざかっていく蓮の背中を、ただ立ち尽くして見ていただけだろう。そして後日イサミちゃんに頼んで誤解を解くなり、何かしら取り繕ってもらったに違いない。
けれど。今の私の胸にはふつふつと自己嫌悪が湧く。
だって私、蓮に結城社長のこと何も話してなかった。男の人と一緒に暮らしてるなんて知れたら嫌われちゃうと思って。
それって正しかった事なの?いつも心配してくれていた蓮に隠し事して、あげくの果てに誤解させたまま帰しちゃうの?
25年間の幼なじみの絆って、そんなに薄情でいいの?ねえ、私。
「蓮、待って!!」
気がついたら私は、傘も差さずに部屋を飛び出していた。
ドアを閉めようと一瞬振り返った時に見えた社長は、いかにも『あ、俺なんかヤバい?』って気まずそうな顔をしていたけど、とりあえずそれは後回しにしようと思った。