ワンルームで御曹司を飼う方法

 小雨とはいえ傘も差さずに追いかけてきた私を振り返り、蓮が慌てて足を止める。

「何してんの。濡れる」

 彼の前まで追いつき向かい合った私に、蓮はぶっきらぼうな台詞と共に傘を傾けてくれた。

 そのせいで自分の背中が濡れてしまっているというのに、躊躇い無く私に傘を傾けてくれる彼がやっぱり好きだ。

 ぶっきらぼうでもいつだって偽り無く私に向き合ってくれた蓮が好き。だから。

「あのね、ごめん、聞いてくれるかな。あのね……あの、部屋に居たひと、彼氏とか恋人とかじゃないの」

 私も偽り無く蓮に向き合おう。いつだって弱い所もちゃんと認めてくれた大切な幼なじみに。

「……どういうこと?」

 私の言葉に蓮は冷静だけど不思議そうな声色で返す。

 蓮に嫌われるんじゃないかと思って今まで話せなかった事情を、私は勇気を出して説明した。

 身内でも恋人でもない、会ったばかりの男の人を泊めた。自称社長の強引さに負けて、食事を振る舞い寝床を与えて。そしてペット扱いでいいと言う彼となんだかんだで結局一緒に暮らしている。

 最初に断れなかった私の弱さ。けれど今ではこの生活を悪くないとさえ思っているのは、見ようによっては節操がないかもしれない。だらしがない、危機感がないと思われても仕方ない。

 けれど、ひとつだけ誤解しないで欲しいのは。

「結城社長は恋人じゃないし、彼とその……か、身体の関係になった事も無いから。それだけは誤解しないで欲しいの」

 じっと黙って聞いてくれていた蓮だったけれど、私が最後に結んだ言葉を聞いて少し間を空けてから口を開いた。
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