ワンルームで御曹司を飼う方法
しどろもどろな私の説明を聞き終わるとイサミちゃんは
『そんなの駄目に決まってるじゃん。怪しすぎる。いい?部屋に一歩も上げちゃ駄目だよ?』
キッパリとしたアドバイスを私にくれた。
「や、やっぱりそうだよね。でもどうしよう。もうその人、部屋の前まで来てるの」
それでもなお私が電話に縋るように尋ねると、イサミちゃんは落ち着いた口調で話し出した。
『灯里、落ち着いて。このままそこから逃げて。それで、どこか近くの交番に――』
スマートフォンを耳に押し当て一生懸命あいづちを打っている時だった。
「おせーよ。何してんの」
「えっ!?」
とつぜん後ろから伸びて来た手が私のスマートフォンを取り上げた。驚いて振り返ってみれば、呆れた表情をしている結城社長。
「上司をいつまでも待たせるなよ。ったく、常識がないな」
「か、返してください!」
彼に奪われたスマートフォンを必死に取り戻そうと手を伸ばす。けれど、20センチはありそうな身長差が邪魔をしてそれを許さない。
結城社長は勝手に通話を切るとそれを自分のスーツのポケットに押し込めて言った。
「長電話は部屋に帰ってからにしてくれ。ほら、さっさと入るぞ」
な、なんて横暴なんだ。彼のあまりの傍若無人ぶりに思わずたじろいでしまう。結城社長はそんな私の様子など気にも止めず
「部屋どれ?片っ端からインターホン押していい?」
なんて、とんでもない事を言い出すので、私は慌てて自分の部屋の鍵を開けざるを得なかったのだった。