ワンルームで御曹司を飼う方法
 
「……蓮、ごめん。いつまでも心配ばっかり掛けちゃってたね、私。でも……多分もう平気だと思うから。蓮は蓮でちゃんと自分の事を一番に考えて欲しい……かな」

 ずっと胸の奥の奥で燻り続けていた火が、消えていくのが分かる。私を縛って、蓮のことも見えない鎖で縛っていた恋。不毛で、けれど一途だった初恋。消えていく。

「別に。俺が勝手に思ってた事だから灯里が謝る必要はないよ」

「うん。でも……蓮が私を大切に思ってくれるように、私も蓮が大切だから。ちゃんと幸せになろうよ、お互いに」

 そんな簡単なことに今さら気付く。お互い幸せになろう、ちゃんと自分の意思で。自分に言い訳ばかりの恋も、勝手な罪悪感も、この夜で終わりになればいい。

「蓮」

 少しだけ震える唇で、それでもきっぱりと彼の名を呼べば、偽りの無い眼差しが私を捉えてくれた。

「臆病な私をいつも心配してくれてありがとう。私の弱いところもちゃんと認めてくれてありがとう。私、蓮が幼なじみで良かった。蓮が初恋で良かった」

「……うん」

「今日は来てくれてありがとう。今まで隠してたこと、全部話せてなんだかスッキリした」

 目をニコリと細めて右手を差し出せば、蓮は一度瞬きをしてからその手を見た。

「これからも大切な友達でいてね、蓮」


 長すぎた青い季節からの卒業は、今夜やっと迎えられる。蓮が傘を持つ手を替えて、ゆっくりと手を握り返して微笑んでくれた時、私は私を少しだけ好きになれた気がした。


「困った事あったらいつでも言って。灯里は大切な幼なじみだから」

「うん。どうもありがとう」


 ありがとう、蓮。大好きだったよ。

 そして、今度こそさよなら。私の初恋。

 
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