ワンルームで御曹司を飼う方法
昨夜の記憶が蘇ってくると共にチクリと胸が痛んだ。自分が長かった初恋に終わりを告げたことを思い出して。
そしてその後、社長が慰めてくれたのをいい事に疲れて眠ってしまうまで彼の懐で泣いた事を思い出して、私はかぁっと頬を熱くさせた。
いくら失恋したからと云ったって、社長に抱きしめられながら泣くなんて……思い出すとちょっと恥ずかしすぎる。
私は熱くなった頬を冷ますのと、頭を冷静にさせようと、まずはシャワーを浴びにバスルームへと向かった。
***
「言っとくけど何もしてないからな。宗根が寝ちゃったからベッドに運んでやったんだぞ。そしたらお前が俺のシャツ掴んで離さないから仕方なく添い寝してやっただけだ」
そんなワケで昨日食べ損ねたすき焼きを朝っぱらから食べつつ、結城社長は昨夜の概要をそう説明した。
「そうでしたか……それはご迷惑をお掛けしまして……」
私は器に取った豆腐と春菊を箸でつつきながら、恥ずかしくて火が出そうな顔を俯かせながら謝罪する。
なんかもう色々恥ずかしすぎてまともに社長の顔が見られない。彼の前で思い切り泣いてしまった事も、抱きしめられて慰められた事も、あげくの果てには添い寝までされてしまった事も。
不可抗力とはいえ、昨日失恋したばかりの身でこんなに異性に密着しまくるのは、あまりにも軽薄ではないだろうか。
そもそも生まれてこの方、お父さん以外の男の人に抱きしめられた事なんて初めてだ。もちろん、一緒に寝る事も。
考えれば考えるほど私の心臓は激しく脈打ち、冷静を保つのが難しくなってくる。食事なんか進むわけが無い。
「なんだよ、食わないのか?」
まったく箸の進んでない私を見て社長が不思議そうな顔をする。どうやら意識しているのはこちらだけで彼は全く平常どおりだ。
「朝からすきやきはさすがに重いです……」
適当に口を突いた理由だったけど、あながちウソでもない。お腹はすいてるけど朝から甘辛味のお肉はなかなかキツイ。
「あっそ。じゃあ俺が食っちゃうぞ」
結城社長は平然とそう言ってお鍋の肉をさっくりとさらっていく。それを見てちょっとやそっとの事じゃ動じない彼は胃袋もハートもタフだなあと感心した。