ワンルームで御曹司を飼う方法
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「はぁ……」
いつものように会社に出勤して来ても、今日の私はイマイチ仕事に身が入らない。パソコンに打ち込んでいくスピードが遅いせいで、次々やってくる伝票がデスクに重なっていく。
まだ新鮮過ぎる失恋の傷。それに加え今朝の衝撃的すぎる寝覚め。恋愛や異性に関して未熟すぎる私にはかなりの大事件だ。仕事中だというのに、ついつい思考がそっちへ行ってしまって困ってしまう。
おかげで午前の業務はいつもの三分の二も進まず、私は昼休憩を三十分潰してしまう羽目になった。
「どうしたの宗根さん。具合でも悪いの?」
遅れて休憩所に入ってきた私に、心配そうに声を掛けてくれたのは兵藤さんだった。
「ううん、そうじゃないの。なんか今日は調子出なくて」
大体の人が昼食を終え、各々くつろいだりお喋りをしてる休憩室の空いている席に腰を下ろすと、既に食事を終えて本を読んでいた兵藤さんも隣にやってきて座る。
「今日の宗根さん、なんかボーっとしてる感じ。……寝不足?目も赤いし」
ギクリとしてしまったのは図星を突かれたからではない。昨日泣き腫らしたせいで未だに赤い目元を指摘されたからだ。
「いや、えっと、睡眠はしっかり取った筈なんだけどね……」
うん、睡眠に関しては問題ない。むしろ泣き疲れたのと温かい包容のおかげでグッスリ熟睡したと思う。
「ちょ、ちょっと風邪っぽいのかも。うん。ちょっとだけだから心配しないで」
まさか失恋して大泣きして社長に抱きしめられながら寝ましたなんて言える筈も無く、私は不思議そうな顔をしている兵藤さんに引きつった笑顔で適当な言いワケを答えた。