ワンルームで御曹司を飼う方法
「本当だ。よく見たら違うかも」
雑誌に顔をマジマジと近づけた兵藤さんが納得したように言う。
「けどよく似てるね、誰だろう。総会長と一緒に会見に来てるって事は本家とかグループの上層部とかの人なんだろうけど」
「こんなに社長に似てるって事は兄弟とか?」
兄弟?兵藤さんの何気なく言った言葉に目をぱちくりしばたかせてしまう。
たしかに兄弟の可能性は大きい。社長に似ている事も、総会長の会見に同行している事も、本家の子息なら説明がつく。
けど、3ヶ月近く一緒に暮らして、彼から兄弟がいるなんて話は聞いた事が無かった。
「兄弟なんて居たのかな……」
思わず首を傾げてしまった疑問だけれど、答えはその日の夜あっさりと返ってきた。
***
「ああ、弟な。いるよ、ふたり。末のはまだ学生だけど、次男は最近親父にくっ付いて色々勉強してるらしいからな、そいつだろ」
昼間見た写真の話を聞いてみたところ、結城社長はあっさりどころかまるで他人事のように弟の存在を教えてくれた。
「『してるらしい』って……兄弟なのに何だか他人事ですね」
夜の9時。私は晩ご飯の後片付けをして、いつものようにカイワレ大根に水を足しながら、社長との会話に苦笑いを零す。
「兄弟ったってあんま一緒に暮らしてないからなあ。留学だのホームステイだの寄宿舎だので3人揃って家にいる事なんて滅多になかったし。それに次男のヤツは俺のこと嫌ってんだよ。たまにパーティーなんかで顔合わせてもろくに口も聞きゃしねえし」