ワンルームで御曹司を飼う方法
のんびりと食後のお茶を啜りながら言った社長の話に、私は色々と驚いてしまう。
兄弟なのに滅多に顔を合わせないという暮らしがまず想像できない。たまに顔を合わせるのがパーティーって、どれだけ個人主義な家族なのだろうか。
そして、その他人のような弟が結城社長を嫌ってるのも驚きだった。社長は確かに強引で人を振り回す事はあるけれど、でもなんというか典型的な憎めないタイプだ。あまり積極的に人に嫌われる人間ではないと思うんだけど。
「颯(はやて)っていうんだけどな、あいつ俺が羨ましいんだよ。結城財閥は代々長男が世襲するのが決まりだからな。俺がいずれ結城の全権を任されるのが羨ましくて仕方ないみたいでさ。努力家な分、どうにも次男の自分がトップに立てないのが悔しくて納得いかないんだと」
「はー……なんかドラマみたいですね」
洗い物を済ませた私も自分のお茶を入れて社長の向かい側の座布団に座る。お茶を啜りながら聞く現実感の無い話はまるでテレビか映画の話題みたいだ。
「本当だよなあ。身内同士、財閥を狙う骨肉の争いってか。やだねえ、俺そのうち颯に寝首かかれるかも」
社長は大げさに苦笑いして見せたものの、実際問題わりと大変なのではないかとも思う。
今まで社長が兄弟の話をした事がなかったのは、そんな理由があったからだろうか。あまり情のない関係に加え財閥の継承問題。どうにも明るくない話だ。
「御曹司って大変なんですねえ」
「まあな。宗根、そんな俺を労って毎日晩飯にデザート付けてくれたっていいんだぞ?」
「駄目です。それとこれとは別問題です。デザートは週末の夜限定です」
どさくさに紛れて図々しい事をねだられたけど毅然と断る。社長は「ちぇ」とイジけた顔を向けると、今日も今日とてバイトをするためにパソコンを開き出した。
もうすっかり見慣れたその光景。大財閥の御曹司である彼がチマチマと内職をするそのいじましい横顔を眺めて考える。
――あまり情の無い兄弟、好意の不明な婚約者、家に徹底管理されてる交友関係。
もしかして社長って……本当は寂しい人なんじゃないだろうか。