ワンダーランドと春の雪





部屋の中はやっぱり広く、周りが本棚に囲まれていて、床にも至る所に本が積み上げられていた。

それはどれも大きくて、人が四人くらいでやっと運べるほどの大きさの本ばかりだった。

私にはとても持てそうにない。


天井はとても高く、夜空に輝く星座の絵が描かれたそれは本物の夜空みたいで、まるで
プラネタリウムの中にいるようだった。




「おお、よく来たのう」



突然、上の方からしわがれたおじいさんの
ような声がした。

顔を上げると御多分に漏れず、そこには
おじいさんがいた。


いや……



「すごいおじいさんだね……」





私が少し引き気味にそう言ったのにはちゃんと理由がある。


今私の目の前にいる、おそらく《学園》の
校長先生であろうこのおじいさんが、白髪混じりの優しそうな初老のおじいちゃん先生だったら、今頃私は普通に挨拶をして用件を伝えているだろう。



おじいちゃん先生というのは合ってたんだけど……て、手が。



――手が、四本あったんだ。




よく見ると足も四本ある。


その異様な姿は、虫の蜘蛛によく似ている。

しかし顔は至って普通で、白いヒゲを生やし
小さいロイド眼鏡をかけた六十歳くらいの
おじいさんだ。

優しそうな顔をしてて、頭には金色の王冠を
載せている。

異様なのは姿だけじゃなくて大きさも。

校長先生は、体が物凄く大きかった。

手足も長くて、顔を見上げていると首が
痛くなってくる。



「このひとが、《学園》の校長。
バエル先生だぜ」



やっぱりそうなのか……。


なんかもうカルチャーショック!!




「ガーゴイルよ、ここまでご苦労。
下がって良いぞ……あと目上の者にはいつも
敬語で話しなさいと言っとるじゃろ」


「へいへい、ご主人様がフレンドリーに
作ったんだから仕方ねえよ」


「へいは一回にしなさい! まったく……」




つり目くんはもう一度、へーいと一回だけ返事をして、部屋を出て行ってしまった。

そのときに私に向かって手を振ってくれたので
振り返していると、校長先生が咳払いした。





「きみが、イズミの友達かね? 人間の友達とは
珍しいのう」


「いや……友達というほどでは」




だって会ったばかりだし、イズミくんも
私のこと嫌いそうだったからね。


校長先生も、私を殺そうとはしなさそうだ。




「いきなりこんな世界に来て怖かったろう。
ミライよ、イズミから大体のことは
聞いている。安心しなさい」


「どうして私の名前を? 」


「さっきお前さんと来たガーゴイルは、
来訪者の情報を聞きだす用なんじゃよ。
廊下で話しておった内容は大体 教師陣は
全員 聴いておったはずじゃぞ」




つり目くんが……。

話してて楽しかったのはそのためだったのか。





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