ワンダーランドと春の雪




駄目だな。

異世界に来てもこんな気持ちになるなんて。


春休み中にはやりたいことを見つけようって
前向きになりかけてたとこなのに。

そんなことを考えながら窓の外を眺めていると、不意にマリーちゃんが立ち上がった。



「そうだ! これから皆でミライちゃんの歓迎会も兼ねて、学園内を案内してあげようよ! 」



その言葉に、皆は嬉しそうに賛成する。

が、ジュリーちゃんの台詞によって、皆のテンションは一気に下がるのだった。



「そんなこと言ってるけど、学年末テスト
一週間前でしょ。単位がやばい人もいるから、マリーとあたしで案内するわ」



歓声が一気にブーイングに変わる。


「忘れてたあ! もうマジでテスト爆発しろ! 」

「二人だけずるいよ! 」

「ミライちゃん食べたい」

「テスト? 何それ美味しいの? 」


テストという単語だけでこんなに皆の機嫌が
悪くなるとは……。

その反応が人間の高校生とあんまり変わらないので、私は思わず笑ってしまった。

それ見たマリーちゃんは不思議そうな顔をして首を傾げた。



「……? どうしたのミライちゃん。
笑った顔も可愛いよ? 」



「ううん。みんな、私と同じ高校生なんだなって」



私の答えに、マリーちゃんは何それ~! と
言って笑った。


いつ帰れるようになるのか分からないけど、
べつにこのままでもいいかな、なんて思っている自分がいる。

それだけ私は元の世界を嫌っていたのかもしれない。

まあユキちゃんには会いたいんだけどね。
























《学園》の中の街並みはどこか退廃的だけど
賑やかで、職員室で会った先生たちも教室とか学生寮ですれ違った生徒たちも皆明るくて、
泣いてたり困っている人は誰もいなかった。





「はい、どうぞ」



ジュリーちゃんが私にくれたのは、ピンクと
黄色が混ざったような色のソフトクリーム。


「ありがとう」



ソフトクリームなのにアイスの部分が半透明
だ。

横に座ったジュリーちゃんも同じのを持って
いる。



「ミライが食べても死んだりしないの、
その桃源郷の桃味しか無かったの。もしお口に合わなかったらマリーにあげてね」


「いやいやちょっと待ってよー! 私今ダイエットしてるんだよ!まあもらうけど! 」


マリーちゃんのソフトクリームはチョコアイスの上に赤黒いシロップのようなものがかかっている。

……まさか血じゃないよね。



「ん、ミライちゃんも食べるー? 幼女の血液味のソフトクリームに女子高生の血液シロップ! 」


「全力でいらないです」


「そう? 美味しいのに~」



マリーちゃんはそう言って、ソフトクリームを舐め始める。

口を開けるたびに尖った牙が見えるのが可愛らしい。





……私たち三人が今いるのは、校門を出たところにある商店街。

そこで雪女のお姉さんが経営する、
《アイス・エイジ》という名前のアイスクリーム屋さん。

お店の名前を見た時、氷河期じゃん! と思わず突っ込んでしまった。

お店の雰囲気は、メニューの名前が呪文みたいになってるあの有名なカフェに似ている。


アイスの味も豊富で、私とジュリーちゃんが
食べてる桃源郷の桃味(仙人になる成分は抜いてあるよ)が一番人気らしい。

その他にも楽園のリンゴ味(知恵がつく成分は抜いてあるよ)とか死霊のはらわた味とか
天使味なんてのもある。

どれも人間には食べられないものばかりだと
ジュリーちゃんが教えてくれた。




桃源郷の桃って食べたら仙人になれるって聞いたことあるけど、一口舐めてみると味は
普通の桃と同じだ。

うん、美味しい。


ユキちゃん桃好きだしお土産で持って帰れないのかな……その前に溶けちゃうか。





「……こうやって、お出かけするの久し振りね」



ふと思い出したように、マリーちゃんが呟いた。




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