ワンダーランドと春の雪
ジュリーちゃんは頷いて言葉を続ける。
「そのリックが気絶した時に出てくる
“もう一人の彼”が、大人しいリックと違って好奇心が旺盛で、絡まれるとかなり面倒くさいのよ」
なるほど……ジキル博士とハイド氏みたいな
人なのか。
そのとき、倒れていたリックくんの体が
びくんと動いたのが見えた。
彼は自分の周りに出来た血溜まりに手を伸ばし、指に着いたそれを一口嘗めると。
「あはは……あはっ……ハァ、は、ははは……
はは――……ギャハハハハハハ!!!」
突然 狂ったような笑い声を上げて起き上がった。
「あァ……腹減ったなァ」
彼はそう言って軍帽を脱ぎ、近くに倒れている一人のゾンビのところへよろよろと
おぼつかない足取りで歩いて行った。
帽子の下から現れた青い髪は乱れ、
青空のようだった瞳の色は血のような真っ赤な色に染まっていた。
見開かれた二つの目で異様だったのは瞳の色
だけではなく、白目の部分が黒く変色している。
ジュリーちゃんの、別人になるという言葉の意味が何となく分かった気がする。
リックくんは自分に刺さっていた剣を抜いて、
倒れているゾンビの傍らにしゃがみ込むと、
その腕を引きちぎってそれにかぶりついたのだった。
腕が骨だけになると、次は反対側の腕、両脚、腹部……と、血肉を貪る獣のようにグチャグチャと気持ち悪い音をさせながら、死体の肉を
一心不乱に口の中に頬張っていく。
やがてリックくんに喰い尽くされたゾンビの体は、もはや原型すら留めていなかった。
そんなグロテスクな光景を目の当たりにして、
うぇ、とミレアくんは気分が悪そうに手で口元を押さえた。
「勘弁してくれよ……だからリッキーって
嫌いなんだ。絶対仲良く出来ねえ」
「リッキーって? 」
「もう一人のあいつが勝手に名乗ってる名前だよ。リッキーって呼んでやらないと殺される」
「なるほど……ありがちな話だね」
リックくん――リッキーは満足したのか
口元の血を手で拭い、次なる興味の対象を求めて辺りをキョロキョロと見回している。