ワンダーランドと春の雪
そして私たちの存在に気付いた彼はまた
ギャハハ!と変な笑い声を上げ、目にも留まらぬ速さで横たわるゾンビたちの間を駆け抜けて、私のすぐ目の前で立ち止まった。
リッキーは私に目線を合わせるために身をかがめ、血のような赤い目で私の顔を舐め回すように見つめながら。
「ほんとにミラクそっくりだ! 」
そう言って、牙を見せて微笑んだ。
それはリックくんとは全く別の、何の悪意も
感じさせない無邪気な笑顔で。
「そっくりだけど……お前の方が美味そうだ」
と、言い終わらないうちに、リッキーは私の
頬を舌でべろりと嘗めたのだった。
「ひっ?! 」
変な声が出てしまった。
何となくざらざらしてべっとりとした感覚を
頬に感じて全身に鳥肌が立つ。
さっきから散々 抱っこされたり足を掴まれたりキスされたり色々と誰得でもない乙女ゲーム的展開になっているけど、今は照れより恐怖感より怒りより、何よりも激しい不快感が私の心の中を支配していた。
というか何でなめたの?!
狼男っていつもこんな感じなの?!
ある意味キスより嫌なんだけど?!
何だか物凄く殴りたかったけど、関わらない方がいいと思って離れようとしたが、リッキーが私の肩に手を回し、身動きが取れなくなってしまった。
「汚い手でミライちゃんに触らないでよ!! 」
マリーちゃんは声を荒げて、リッキーに向けてピストルの引き金を引いた。
彼女の撃った弾は破裂音と共にリッキーの胸を貫いて――は、いなかった。
銀色に輝く銃弾を二本の指で挟んで受け止めたリッキーは、馬鹿だなと言って笑い、もう片方の手で私の喉元に自分の爪を突き立てる。
「そ、そんな……っ?! 」
「ギャハハ! 危ねェな、こいつに当たるとこ
だったぜェ?! オレはお前らが死のうが生きようが超どうでもいいんだけどよ。もう一人の
自分のことも興味ねェし、要はオレが楽しけりゃそれでいいんだよ」
でも楽しいだけってのもつまんねーしなァ、とリッキーは更に言葉を続ける。
「だからさァ! この女、オレにくれよ! 」