【短編】はくだく【BL】
数分後、尊が釣竿を使って僕の部屋の窓を叩いた。
絶対に返事なんてしてやんない。
「馨ー?馨ちゃーん?聞こえないのー?いないのー?死んだのー?」
尊は大声でそう言った。
そのあと大きな物音がして、拳で窓を叩く音がした。
二階の僕の部屋のベランダと尊の部屋のベランダの間は数十センチしかなく、この年になれば軽く飛び越えられる。
たぶん尊は僕のベランダに飛び移ったんだと思う。
「馨ー?いるんだろー?」
僕は無視しきれなくなって、とうとう窓を開けた。
「なんだよ」
いつもより少し乱暴にそう言った。
「えっ、なんで怒ってんの?」
なんで怒ってるか…?
怒ってない、怖いだけ。その口から出る次の言葉で僕との関係に隔たりができるのが。
もう僕とは登下校してくれなかったら、僕とお昼を食べてくれなかったら、僕のお弁当がいらなくならったら、僕は、僕は一体なんのために毎日を過ごせば…。
もし尊の自転車の後ろに、僕じゃない他の子が乗ったら…。
僕はその場で泣かないようにするのに必死だった。
「とりあえず中入れて。寒い」
「嫌だ」
「なんでだよ!」
尊は冗談だと思ったのか僕にツッコミを入れる。
だけど、僕は冗談を言う余裕なんてないし、尊のツッコミに乗る余裕もない。
「…ノーリアクションかよ、寂しいな」
尊はうつむいてる僕の顔を覗き込もうとする。
「やめてよ!」 バタンッ
僕は衝動的に窓を閉めた。
今の顔を見られたら、そしたら尊は僕を問い詰めるだろう。
なんで泣いてるんだ、って。
「あいつ…なんで泣いてるんだ…?」
尊は勢いよく閉められた窓に向かって呟いた。