【短編】はくだく【BL】
さっきから携帯が鳴り止まない。
留守電に切り替わるたびに、「出ろ」と一言だけ録音して切る。
その直後にまたかけてきて、また留守電になる。
そんな馬鹿げたことを何度も何度も繰り返してるのは尊。
電話なんてしなくても、すぐそこに、窓を挟んだ向こう側にいるのに。
僕がまともに取り合わないのをわかってるからもう部屋に戻ったみたいだ。
ふと、携帯が鳴り止んだ。
「馨ー、尊くんから電話よー」
階段の下からそう言う母さん。
いくら携帯にかけても出ないから、ついに自宅にかけてきたのか。
仕方なく僕は下に降りて受話器を取った。
「もしもし…」
「馬鹿!なんで出ないんだよ!ふっざけんな!100回かけたんだぞ!全部無視しやがって!馬鹿!馬鹿!バ馨!」
威勢のいい声は母さんの耳にも届いたようで、こちらを見てクスッと笑った。
「そんなに怒らなくてもいいだろ」
「はあ?先に怒ってたのはお前だろ?」
「別に…怒ってないよ…」
「じゃあ、なんで電話に出ないんだよ」
「出たくなかったからだよ」