願い事を一つだけ。【短編】
私の中で疼くの。


姉様。姉様。


私のこと、振り返らないで。

幸せになって下さい。


たまにフランスから届く菊と椿と菖蒲のドライフラワー。


フルール・メイユールなんて語呂の悪い名前で送ってるけど、あれは菊乃姉様のものでしょう?


菖蒲と椿を象った帯留め。

椿姉様でしょう?


あの冬。

私には知らされない、家で起こったこと。


部活から帰ってきたら、お母様たちが厳しい顔をしていた。


ホッとしていたようではあったけれど。


家のことも、姉様のことも、何も知らない。



何も知らない。


ベッドに置いた携帯がブーブーと鳴った。


画面を見ると、【中原】の文字。


文面を見る前に【青葉】に変えちゃっていいかなぁ、なんて浮わついたことを考える。


それくらい顔がほころんでいた。


《菖蒲っちゼリーありがと!》


わざわざメールしてくれたんだ、青葉。


《うん。気に入ってくれたなら良かった》


絵文字の1つも付けられない私。

だってなんか恥ずかしいし、つける勇気が出ない。
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