願い事を一つだけ。【短編】
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「菖蒲、あんたそりゃ恋だわ」


前衛練習の途中、相談相手の朝美が素振りをしながら言った。


「恋?」


「そうでしょ。疑う余地ある?」


「恋ってもっと恥ずかしくて甘酸っぱいものだと思ってた」


「菖蒲のも充分甘酸っぱいけど!」


「そうかな」

「そうだよ…っと」


朝美は綺麗にランニングボレーを決めて、何だか嬉しそうに笑った。


「何?朝美」

「菖蒲もそんな時期が来たんだねーっ」


「うるさいなー。どんな時期よっ…ふぅ」


顧問の金岡先生のストロークがもろにストレートに来た。


男性のストロークは強い。


まあそれでもと難なく返したが、目の前に痛そうなボールが来るとやっぱり怖いな。


「でもさ菖蒲ー」


ふと朝美が顔を曇らせる。

「中原は気をつけな?女子とっかえひっかえしてんのよアイツ」


「知ってるよ」


同学年では有名な話。


だけどあの日の青葉の目に嘘なんて無かった……はず。

そう思いたい。


「まっ菖蒲に限ってそんなこたーないと思うけど…」

「私…好きだもん青葉。信じる。返事、頑張る」


「おうよ、頑張りな」


「本当に好きなの」


私が念を押すと、ちょうど玲子が捕り逃して飛んできたボールを朝美が渾身の力でスマッシュする。


「っはぁー!!この天然殺し!!ダメだあたし悶え死ぬわ!!」


「え、何言ってんの。死なないでよ!」


「あんたが殺したくせに」

「殺してない!」



恋愛相談は物騒に終わったけど……私は私なりに頑張ろう。


そう決意し、私はスマッシュをアングルに叩き込んだ。
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