願い事を一つだけ。【短編】
「あれ、菖浦?」


声に反応して後ろを向くと、

「凜兄!」


しばらく会っていなかった、幼なじみの兄様がいた。

「あ、すみません。凜さん…」


お母様から間宮の娘が【凜兄】なんてお下品だと言われたばかりだった。


「お前まだババアの言いなりなのか」


椿姉様が監禁されていたことから、凜さんはお母様のことをババアと呼ぶようになった。


でも、口こそ悪いが目や態度は優しい。


「凜さん、叱られますよ?私は告げ口など致しませんが」


久しぶりの凜さんに自然と笑みがこぼれる。


「いいんだよ、あんなやつ。もう姑でも何でもねぇし、菊乃との婚約も破棄されたんだし」


「婚約を破棄?」


また初耳だ。いつの間にそんなことがあったんだろう?


やはり私は家の情勢に疎いのだろうか。


…なるたけ関わりたくないだけかもしれないけど。
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