願い事を一つだけ。【短編】
◇゜。◇゜。◇゜。◇゜。◇゜。◇


「はぁ…っ、はぁ…」


用具室の前で息をつく。


「菖蒲っち?」


また先越されちゃった。


名前呼ぶのも全部、青葉は私より先。


最近どことなく気まずくなっていたから、久しぶりに呼ばれた名前に胸が締めつけられた。



こんな恋を、お母様たちはいわゆる低俗だと言うかもしれない。


でも、もうそんなことどうでもいいの。



「菖蒲っち?こんなとこ埃っぽいから出なよ」


ぽんと頭に手が置かれる。

懐かしいような優しい手。

「嫌。出ない」


「菖蒲っち…?」


「好き!!青葉が好きなの!!今まで気まずかったけど、勘違いして傷ついてたけど!!ずぅっと青葉が好きだった!!青葉しか頭になかった!!」


不意に視界が真っ暗になり、きゅっと身体に圧迫感を感じた。


そして、


「バーカ」


愛しい人の声が耳元で聞こえる。


くすぐったいような胸の鼓動。


それだけで充分だった。


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