願い事を一つだけ。【短編】
「あー美味そ!菖蒲っち頂戴」


後ろから声がした。

弾かれたように顔を上げたのはたぶん無意識。


「…中原」

心とは裏腹に変わらない表情と、感情の色がない声。

だけど彼の笑顔は変わらない。


中原 青葉(Nakahara Aoba)。


サッカー部のゴールキーパーで、ものすごく背が高い。

ゴールポストに手が届くほど。


小柄すぎる私には羨ましい限りなんだけど。


日本とカナダのハーフで、綺麗なブロンドがキラキラ輝いている。


「菖蒲っちー!」

「ちょっと青葉!!菖蒲にたかんないで中町コーチにたかんなさいよ」


チームメイトが中原を睨みつける。


「は!?中町コーチにたかったら殺されるわ!なぁ菖蒲っちー」


「えっ?うん…はい、ゼリー」

中原の笑顔は揺らがない。

「サンキュ」


カップを受け取って小走りで戻ろうとしたが、クルリと振り返った。


「菖蒲っち、青葉でいーよ!」


「あ…青葉っ」


"笑って"


口パクでそう言う彼に、胸がキュンと鳴った。
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