届屋ぎんかの怪異譚



「わかりました」


朔が言った。



「江戸で相次ぐ首吊り事件、その因が鬼にあるのなら、その鬼を退治してみせます。ただ、保之助さんの亡骸を持ち去ったのが例えば妖ではなかった場合、俺は何もできません」



つまり、人間だった場合、人殺しを引き受けることはできない、と。



それでも構わないか、と尋ねた朔に、老主人は頷き、頭を下げた。



それから朔と老主人が報酬や期限の話をするのを、銀花はただ聞き流していた。


その内容を流麗な文字で紙に書きつけ、朔が拇印を押すのをただぼんやりと見ていた。


やがて朔が「それでは」と言って立ち上がったので、銀花もなかば無意識に立ち上がる。



ぼんやりとしたまま朔に引っ張られて、銀花はさがみ屋を後にした。



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