届屋ぎんかの怪異譚




さがみ屋を出ると、そこにあざみの姿はなく、代わりに風伯が立っていた。



散歩をしていて偶然あざみと出くわした風伯は、あざみから事情を聞き、風を使って朔とさがみ屋の主人の会話を聞いたのだ。


そして「長くなりそうだから銀花の家で待っていよう」と、あざみを橘屋へ連れて行ったという。



風伯の気遣いに、銀花は「ありがとう」と微笑んだが、その笑みはどこか弱々しい。



「ごめんね風伯、もうしばらく時間がかかりそうって、あざみに伝えてくれる?」



銀花が言うと、風伯は頷いて風に乗って去っていった。



「おまえ、どうするんだ」



朔が労わるような静かな声で尋ねる。



「そうね……。とりあえず、家に戻りながら、あざみにどう伝えるか考えておくわ」




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